花火までの距離が分かったら、高さも求められる?(三角比の実践編)
更新日:2026-08-06
「花火の音と光はなぜズレて聞こえるの?」では、光と音が届くまでの時間差から、花火までの距離を計算する方法を紹介しました。ここからは中学・高校の数学(三角比)を使って、もう一歩踏み込んでみましょう。実はあの計算で求めていた距離は、花火までの「水平方向の距離」ではなく、観測者から花火へまっすぐ引いた距離(斜辺)です。これを使って、花火の打ち上げ高度と水平距離まで分解できるとしたら、どうでしょうか。
直線距離は「まっすぐの距離」であって、水平距離ではない
観測者・花火の真下の地点・花火(爆発点)の3点を結ぶと、直角三角形ができます。前回の記事で計算した「秒数 × 340m」の距離は、この三角形の斜辺にあたります。花火が近くの低い位置で開いた場合と、遠くの高い位置で開いた場合とで、斜辺の長さが同じになることもあり得るのです。

① 花火の高さが分かっているなら:三平方の定理で水平距離を求める
花火の号数(打ち上げ玉のサイズ)ごとのおおよその到達高度は資料として公開されていることがあります。もし高さ h があらかじめ分かっているなら、角度を測らなくても、三平方の定理(直角三角形の3辺の関係)だけで水平距離 x を求められます。
上の図の例(光ってから音が届くまで6秒、高さ300mと仮定)で計算してみましょう。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 光ってから音が届くまでの秒数 | 6秒 |
| 直線距離 d(6秒 × 340m、約2040mを約2kmに丸め) | 約2km(2000m) |
| 高さ h(大型花火の目安として仮定) | 300m |
| 水平距離 x(2000² − 300² = 3910000) | 約1980m(約1.98km) |
水平距離(約1980m)は直線距離(2000m)より少しだけ短くなりました。この例で観測者が花火を見上げる角度は、実は約8.6度(= h ÷ d の逆三角関数)です。距離が近くなるほど、あるいは花火の高さが直線距離に対して大きくなるほど、この角度は急になり、水平距離と直線距離の差もはっきりしてきます。反対に、花火大会からとても離れた場所(数十km先)から見る場合は、高さの影響がほとんど無視できるほど小さくなり、水平距離は直線距離とほぼ同じになります。花火が空高くではなく地平線ぎりぎりの低い位置に見えるのは、そのためです。
② 花火の高さが分からない場合:仰角を測って三角比で求める
高さが分からない場合は、逆に「見上げる角度(仰角)」を自分で測ることで、三角比(sin・cos)を使って高さと水平距離の両方を計算できます。直角三角形において、斜辺の長さを d、仰角を θ とすると、高さ h と水平距離 x は次の式で求められます。
sin・cos は、直角三角形の辺の比(三角比)を角度から求める関数です。中学3年の三平方の定理の発展、高校数学Iの「三角比」で学ぶ内容ですが、電卓やスマートフォンの計算機アプリに sin・cos の機能があれば、角度を入力するだけで比の値を求められます。① の方法と違って高さを仮定する必要がないので、花火の号数が分からない場合や、より正確に求めたい場合に向いています。
仰角の測り方
特別な機材がなくても、簡易的な分度器(クアドラント)を自作すれば仰角を測れます。
- 分度器(円形または半円形)の中心に糸を結び、糸の先に小さいおもり(消しゴムなど)をつける。
- 分度器のまっすぐな辺(0度〜180度の線)に、ストローや筒を沿わせてテープで固定する。
- ストローの穴から花火(の見えた位置)をのぞき込み、糸が垂れ下がった位置の角度を読み取る。
- 分度器の目盛りは水平を0度として作られていないことが多いため、「90度からのズレ」を仰角として計算する(例:糸が70度の位置なら、仰角は90−70=20度)。
スマートフォンの水準器(傾き測定)アプリを使い、画面の上端を花火の見えた方向に向けて角度を読み取る方法でも代用できます。ただし、花火大会からとても離れた場所(数十km先)から見る場合は、仰角が1度に満たないほど小さくなり、手作りの道具では測れません。仰角を測る方法は、比較的近く(数百m〜数km程度)で見る花火向きです。
計算してみよう(例)
近くの花火大会で、光ってから音が届くまでの秒数が3秒、見上げた角度が20度だった場合を計算してみましょう。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 光ってから音が届くまでの秒数 | 3秒 |
| 直線距離 d(3秒 × 340m) | 約1020m |
| 見上げた角度 θ | 20度 |
| 高さ h(d × sin20°) | 約349m |
| 水平距離 x(d × cos20°) | 約959m |
実際の大型花火(尺玉クラス)の打ち上げ高度はおよそ300〜400m程度とされているので、この例の「約349m」はちょうどそのレンジに収まる、大型花火らしい計算結果になっています。
計算するときの注意点
- どちらの方法も、観測者の目の高さを0とみなした簡易的なものです。実際は観測者の身長分のズレがあります。
- 花火が風で流れたり、打ち上げ場所と観測地点の間に高低差がある場合は、誤差が大きくなります。
- ②の方法は仰角の測定精度がそのまま結果の誤差につながるため、可能であれば複数回測って平均を取ると精度が上がります。
- 花火は開いた後も少しずつ落下しながら燃え広がるため、「見上げた瞬間」をできるだけ花火が開いた直後に統一すると、比較しやすくなります。
光と音のズレから距離を求め、そこに高さの情報や仰角を組み合わせることで、水平距離や打ち上げ高度まで求められます——ここまでできると、「花火までの距離を計算する」自由研究が、三平方の定理や三角比を実際に使う数学の実践レポートにもなります。前回の記事の記録表に「見上げた角度」の列を追加して、まとめて記録しておくのもおすすめです。